任意整理の動向

個人の方の債務整理には,主要な手段として自己破産,個人再生,任意整理があります。このうち,自己破産と個人再生は裁判所で行われる手続になり,任意整理は対象となる貸金業者またはクレジットカード会社と弁護士が個別に交渉を行う手続きとなります。

自己破産と個人再生は,手続について法律に規定があり,また各地方裁判所での実務(例えば自己破産手続における自由財産の拡張についての実際の取扱いや,同時廃止と管財事件の振り分けなど)についてもある程度明確になっていますので,その手続を採用した場合の結果について予測することは比較的容易です。
もちろん,小規模個人再生の場合に,どの債権者が再生計画案に反対するのかについてはやや不明な点はありますが,反対しない債権者がほとんどであり,反対する可能性が高い債権者についてはある程度ネット上に情報が出ています。そのため,債権者の反対により再生計画案が認可されないおそれがある場合は,給与所得者等再生または自己破産を選択することができます。

しかし,任意整理の場合,業者毎に個別に交渉しますので,任意整理についての業者の扱いに変更があった場合には,任意整理後の返済額が当初の想定より多くなる場合があります。ここ数年でも,任意整理による返済回数の上限を60回(5年間)に変更したクレジット会社がありましたし(それ以前は60回を超える回数での合意が可能でした),最近では,それまで84回払いで合意ができていたクレジット会社について,72回までと言われるようになりました。
例えば,負債額が100万円の場合,84回払いですと月々約1万2000円の返済となりますが,72回払いですと月々約1万3900円となります。

それほど差はないのではないかと思われるかもしれませんが,例えばクレジットで購入した自動車があり,生活に自動車が不可欠な場合,自己破産や個人再生を選択すると所有権留保条項により自動車はクレジット会社によって引き揚げられますので,自動車をどうしても残したいという場合は,任意整理を選択するしかありません。そのような場合,任意整理後の返済もギリギリであることがあり,1000円,2000円の違いが大きく影響します(なお,任意整理を行っても返済が難しいという場合は,私は任意整理での受任はお断りしています。)。
家族に借金や債務整理について知られたくないため任意整理を選択する場合も同様です。

最近は任意整理についての業者側の対応も厳しくなっていると感じることが多くなっていますので,相談者の方の収支状況からみて,厳しめの条件を前提として想定される任意整理後の返済額だと返済が厳しいと判断される場合は,任意整理での受任をお断りさせていただくことも増えるかと思います。