被相続人に負債があるものの、長期間返済が行われていなかった場合、消滅時効期間が経過している可能性があります。
消滅時効の効果は、債務者が時効の援用を行うことで確定しますが、この消滅時効の援用権も被相続人の財産に属した権利義務になりますので、相続人は、相続により承継した時効援用権を行使して消滅時効の効果を確定させることができます。これにより、相続人は、時効の援用を行った負債について支払義務を免れることになります。
他方、相続人は、相続放棄を行うことによって負債を相続することを免れることも可能です。債権者が異なる負債が複数ある場合、(いずれも消滅時効期間が経過していることを前提として)消滅時効の援用は負債毎に消滅時効援用通知書を作成して(通常は内容証明郵便で)行わなければなりませんが、相続放棄の場合は、家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出し、裁判所から交付される相続放棄申述受理通知書のコピーを各債権者に送付して完了となります。
相続放棄を行った場合、相続人ではなかったとみなされることになりますので、マイナスの財産である負債のみならず、預貯金などプラスの財産についても承継しないことになります。
他方、消滅時効の援用は相続の承認を前提としますので、預貯金などプラスの財産も承継しますが、消滅時効期間が経過していない負債があった場合はそれも承継することになります。
相続放棄をするか、消滅時効の援用で解決するかは、被相続人の財産状況を考慮して検討することになります(なお、限定承認を選択した場合は相続財産の限度で負債を返済すればよいことになりますが、限定承認は相続人全員で行う必要があります。そのため、案件数は極めて少なく、限定承認を取り扱ったことのある弁護士も少ないでしょう。私は、過去に1件だけ扱ったことがあります)。