住宅資金特別条項の利用と住宅資金貸付債権2

1 8月に「住宅資金特別条項の利用と住宅資金貸付債権1」を投稿していましたが、今回は第二弾の投稿になります。

まず、住宅資金貸付債権についてのおさらいです。

民事再生法198条1項は、住宅資金貸付債権について、再生計画において住宅資金特別条項を定めることができると規定し、同法196条3号は、住宅資金貸付債権について、「住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。」と定義しています。

つまり、住宅ローンなら何でも住宅資金特別条項を定めることができるわけではなく、「住宅資金貸付債権」に該当しなければ住宅資金特別条項は利用できないということです。

2 前回は住宅ローンの借り換えをご説明しましたので、今回は住宅の買い替えに伴い借り入れた住宅ローンが「住宅資金貸付債権」に該当するかどうかを検討します。

【ケース1】2LDKのマンションを3000万円で購入したAさんは、子供が二人生まれたため、4000万円の3LDKのマンションを購入して転居することにしました。2LDKのマンションの住宅ローンは2500万円残っていましたが、マンション周辺の再開発で価格が高騰し2600万円で売却することができたため、2LDKのマンションの住宅ローンは全額返済することができ、3LDKのマンションを購入する際に新たに住宅ローンを組みました。

【ケース2】ケース1の事例で、2LDKのマンションは駅から徒歩15分以上かかる場所にあるため価格が下がっており、2100万円でしか売れない見込でした。

つまり、2LDKのマンションを売却しても住宅ローンは400万円残ってしまうことになります。

そこで、3LDKのマンションについて住宅ローンを組む際、購入費用4000万円に400万円を上乗せして借り入れ、その400万円を2LDKのマンションの住宅ローンの返済に充てました。

【ケース3】ケース2で、2LDKのマンションには日常生活には大きな支障はないものの欠陥があり500万円でしか売れない見込でした。そこで、3LDKのマンションの購入費用4000万円に2000万円を上乗せして住宅ローンを組み、2LDKのマンションの住宅ローンの返済に充てました。

3LDKのマンションを購入した際に組んだ住宅ローンが住宅資金貸付債権に該当するのかどうかが問題ですが、ケース1は問題なく該当します。借り入れた住宅ローン全額が3LDKのマンションの購入費用に充てられているからです。

ケース2は、3LDKのマンションの住宅ローン4400万円のうち400万円が買い替え前のマンションの住宅ローンの返済に充てられているところ、買い替え前のマンションは民事再生法196条3号の「住宅」には該当しませんので、400万円は住宅購入資金に該当しません。ただ、買い替え前の住宅ローンの返済に充てられた金額(400万円)は住宅ローン総額(4400万円)の1割程度と少ないですので、全体として住宅資金貸付債権の性質は失われないと判断されることが多いでしょう。

しかし、ケース3の場合、3LDKのマンションの住宅ローン6000万円のうち2000万円が買い替え前の住宅ローンの返済に充てられており、その割合は3分の1にもなりますので、通常、住宅資金貸付債権とは認められないでしょう(「通常」としたのは、このようなケースでも住宅資金貸付債権であることを前提として手続きを進めた裁判所があるからです。弁護士としては、裁判所によって扱いが異なると、ケース3のような案件で個人再生の依頼を受けていいものかどうか、非常に迷います)。

なお、住宅資金貸付債権に該当するかどうかについては、一般の方がネット等(本ブログも含みます)から得た知識のみで判断することはリスクがありますので、住宅ローン等の資料を用意して必ず弁護士に相談してください。