相続放棄か時効援用か

被相続人に負債があるものの、長期間返済が行われていなかった場合、消滅時効期間が経過している可能性があります。

消滅時効の効果は、債務者が時効の援用を行うことで確定しますが、この消滅時効の援用権も被相続人の財産に属した権利義務になりますので、相続人は、相続により承継した時効援用権を行使して消滅時効の効果を確定させることができます。これにより、相続人は、時効の援用を行った負債について支払義務を免れることになります。

他方、相続人は、相続放棄を行うことによって負債を相続することを免れることも可能です。債権者が異なる負債が複数ある場合、(いずれも消滅時効期間が経過していることを前提として)消滅時効の援用は負債毎に消滅時効援用通知書を作成して(通常は内容証明郵便で)行わなければなりませんが、相続放棄の場合は、家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出し、裁判所から交付される相続放棄申述受理通知書のコピーを各債権者に送付して完了となります。

相続放棄を行った場合、相続人ではなかったとみなされることになりますので、マイナスの財産である負債のみならず、預貯金などプラスの財産についても承継しないことになります。

他方、消滅時効の援用は相続の承認を前提としますので、預貯金などプラスの財産も承継しますが、消滅時効期間が経過していない負債があった場合はそれも承継することになります。

相続放棄をするか、消滅時効の援用で解決するかは、被相続人の財産状況を考慮して検討することになります(なお、限定承認を選択した場合は相続財産の限度で負債を返済すればよいことになりますが、限定承認は相続人全員で行う必要があります。そのため、案件数は極めて少なく、限定承認を取り扱ったことのある弁護士も少ないでしょう。私は、過去に1件だけ扱ったことがあります)。

消滅時効のご相談

今月は時効援用のご相談を比較的多く受けました。時効援用の相談に来られる方の相談申込みのきっかけの多くは、①クレジットカード等を申し込んだところ審査に落ちたため、信用情報を取り寄せたところ、返済をストップして放置していた昔の借り入れが延滞として登録されていた、というようなパターンか、②業者(債権者と言います)から昔の借り入れについて請求書等が届いた、というようなパターンです。今月は、②のパターンが多かったです。

②の場合、請求書を送ってくる業者は元々の借り入れを行った業者(例えばアイフルなど)の場合もありますし、それらの業者から貸付金債権等を譲り受けた債権回収会社の場合もあります。

②の場合に注意していただきたいのは、突然届いた請求等に驚いてその書類に記載されている番号にすぐに電話し、分割払いの相談などは絶対にしない、ということです。消滅時効は、時効期間が経過していたとしても、債務(負債)の存在を承認してしまうと(分割払いの相談も債務の存在を承認していることが前提の行為です)、時効期間がリセットされてしまい、債務を承認した時からあらためて民法(または商法)所定の時効期間が経過しないと時効の主張(これを時効の援用と言います)ができないことになってしまいます。

返済をストップしてから長期間経過している債務について請求書等が届いた場合は、焦らずにまず弁護士に相談してください。