今回は,過払金返還請求で近時貸金業者側が争うようになってきた過払金の消滅時効について取り上げます。なお,以下の記載は本記事投稿時の民法を前提とした内容です(令和2年4月1日施行予定の民法改正により消滅時効についても内容が変わります)。
まず,過払金の消滅時効について判示したのは最高裁判所平成21年1月22日です。この判決は,「過払金充当合意を含む基本契約に基づく継続的な金銭消費貸借取引においては,同取引により発生した過払金返還請求権の消滅時効は,過払金返還請求権の行使について上記内容と異なる合意が存在するなど特段の事情がない限り,同取引が終了した時点から進行するものと解するのが相当である。」と判示しました。
つまり,過払金の消滅時効は,原則として,完済している場合は完済時,完済前の場合は最後の取引時(貸付または返済)から進行します。
上記のように判断した理由について,最高裁は次のように述べています。
「過払金充当合意においては,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り,過払金を同債務に充当することとし,借主が過払金に係る不当利得返還請求権(以下「過払金返還請求権」という。)を行使することは通常想定されていないものというべきである。」
なお,過払金充当合意とは,基本契約に基づく借入金債務につき利息制限法1条1項所定の利息の制限額を超える利息の弁済により過払金が発生した場合には,弁済当時他の借入金債務が存在しなければ上記過払金をその後に発生する新たな借入金債務に充当する旨の合意です。
つまり,最高裁は,新たな借入金債務の発生が見込まれる限り過払金返還請求権を行使することは期待できないから,過払金の消滅時効の起算点を最後の取引時としたのです。
この,「新たな借入金債務の発生が見込まれる限り」という部分に貸金業者が目を付け,主張するようになったのが,貸付停止措置を取った時点を起算点とする消滅時効の主張です。貸付停止措置により,新たな借入金債務の発生が見込まれなくなったから,その時点から過払金返還請求権の行使が期待できるようになった,という主張です。ただし,通常は,「貸付停止措置」という名の明確な措置があるわけではなく,貸付限度額(極度額)をゼロにすることを貸付停止措置と呼ぶ貸金業者が大半です(借主の信用状態が悪くなったから貸付限度額をゼロにし,貸付停止措置を取ったなどと主張してきます)。
貸付限度額をゼロに変更された場合にも,その後に増額される可能性がありますので,このような貸金業者側の主張が認められることはほとんどないですが,信用状態がかなり失墜している場合に貸金業者側の主張が認めらている下級審判例もあります。
過払金の請求は最後の取引から10年は大丈夫だと思っている方もいらっしゃるかと思いますが,念のため,最後の借入日がいつになっているかもチェックし,早めに弁護士にご相談ください。