今回も,相続放棄の手続について弁護士にご相談,ご依頼をいただく場合の注意点などについてご説明します。
前回は相続人についてご説明しましたので,今回は相続財産についてご説明します。
(1)相続財産とは,相続によって相続人に引き継がれることになる権利義務関係です。「義務」とあるように,借金(借りたお金の返済義務)も相続財産になります(いわゆるマイナスの財産です)。
被相続人が受取人になっている死亡保険金も,被相続人の死亡と同時に被相続人が保険金請求権を取得し,それを相続人が相続することになりますので,相続人が手続きをして保険金を受領してしまうと,法定単純承認となり相続の放棄はできなくなります(民法921条1号)。
他方,例えば被相続人の妻が受取人になっている死亡保険金の場合,被相続人の死亡により被相続人の妻が直接保険金請求権を取得することになりますので,これは相続財産にはあたりません。
例えば,被相続人の借金が500万円あり,他方で被相続人が受取人を被相続人の妻とする生命保険(死亡保険金額1000万円)に加入していた場合,妻は,相続放棄をしても,1000万円の保険を受け取ることができます(相続放棄をしているので500万円の借金は相続しません)。
(2)上述のとおり,相続財産にはマイナスの財産も含まれますが,被相続人にマイナスの財産があるかどうか不明な場合もあります。この場合は下記のように対処してください。
まず,被相続人がある特定の貸金業者から借り入れていることは間違いないが(例えば財布にクレジットカードやローンカードが入っていた場合),その金額が不明の場合,法定相続人であれば,その業者に借入金残額の照会をすることが可能です。
また,業者名が分からない場合でも,銀行や消費者金融,信販会社(クレジットカード会社)からの借入等であれば,信用情報を調べることで業者が判明します。著名な信用情報機関にはJICC,CICおよびKSCがありますが,この3つの信用情報に業者が記載されていれば,その業者に照会することで借り入れ等の有無,金額が判明します。
他方,個人からの借り入れや,借入等以外の債務(例えば損害賠償債務)は信用情報を調べてもわかりませんので,被相続人が遺した通帳や書類等を丹念に調べる必要があります。例えば,特定の個人に対する振り込みが定期的に通帳に記録されている場合,当該個人からの借入金の返済である可能性があります。