1 2022年9月に、自己破産手続き前に保有する暗号資産(仮想通貨)を隠蔽したとして37歳の男性が逮捕されたというニュースが報道されました。破産法は、第14章で罰則を定めていますが、男性は、詐欺破産罪について規定する265条1項1号の罪で逮捕されています。報道によると、暗号資産の隠蔽行為に同法違反容疑を適用するのは珍しいことのようです。
この男性は、約3000万円の損害賠償債務を負っていたため破産手続を行ったところ、破産管財人の調査で暗号資産を隠していることがわかり、破産管財人が回収した暗号資産の価値は約1600万円まで値上がりしていたようです。
報道によると、この摘発は、暗号資産のマネーロンダリングを阻止するという当局の姿勢を表したものとのことです。
2 破産法265条1項は、「破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(…)について破産手続開始の決定が確定したときは、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第4号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。」とし、1号で「債務者の財産(…)を隠匿し、又は損壊する行為」、2号で「債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為」、3号で「債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為」、4号で「債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為」を規定しています。
報道によると、逮捕された男性は、破産手続きが始まる前に15回にわたり国内で保有していたビットコインなど9種類の暗号資産をアイルランドの取引所に移動させていたとのことですので、この行為は1号の「隠匿」に該当することになります。
法定刑は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金ですので、詐欺破産罪は決して軽い罪ではありません。
破産のご相談の際、「車の名義は妻に変えたほうがいいですか?」などと質問されることがありますが、それは「破産犯罪をしたほうがいいですか?」ということであり、そのような質問を受けた時点で相談は打ち切りです。破産を検討中の方は、弁護士に相談する前に、破産法265条以下の破産犯罪の条文(ネットで検索すれば条文を確認できます)を一度確認してみてください。