相続放棄か時効援用か

被相続人に負債があるものの、長期間返済が行われていなかった場合、消滅時効期間が経過している可能性があります。

消滅時効の効果は、債務者が時効の援用を行うことで確定しますが、この消滅時効の援用権も被相続人の財産に属した権利義務になりますので、相続人は、相続により承継した時効援用権を行使して消滅時効の効果を確定させることができます。これにより、相続人は、時効の援用を行った負債について支払義務を免れることになります。

他方、相続人は、相続放棄を行うことによって負債を相続することを免れることも可能です。債権者が異なる負債が複数ある場合、(いずれも消滅時効期間が経過していることを前提として)消滅時効の援用は負債毎に消滅時効援用通知書を作成して(通常は内容証明郵便で)行わなければなりませんが、相続放棄の場合は、家庭裁判所に相続放棄の申述書を提出し、裁判所から交付される相続放棄申述受理通知書のコピーを各債権者に送付して完了となります。

相続放棄を行った場合、相続人ではなかったとみなされることになりますので、マイナスの財産である負債のみならず、預貯金などプラスの財産についても承継しないことになります。

他方、消滅時効の援用は相続の承認を前提としますので、預貯金などプラスの財産も承継しますが、消滅時効期間が経過していない負債があった場合はそれも承継することになります。

相続放棄をするか、消滅時効の援用で解決するかは、被相続人の財産状況を考慮して検討することになります(なお、限定承認を選択した場合は相続財産の限度で負債を返済すればよいことになりますが、限定承認は相続人全員で行う必要があります。そのため、案件数は極めて少なく、限定承認を取り扱ったことのある弁護士も少ないでしょう。私は、過去に1件だけ扱ったことがあります)。

任意整理のご相談

こんにちは!中年ですがかわいい系弁護士と思い込んでいる白方です!

さて、わたしは主に債務整理の分野を扱っていて、裁判所から破産管財人の依頼を受けることもありますが、自己破産・個人再生と、任意整理の最も大きな違いは何だと思いますか?

もちろん、専門家によって考え方に違いはあると思いますが、わたしが考える最も大きな違いは、自己破産・個人再生はその手続きについて法律で定められており(破産法と民事再生法です)、裁判所で行われる民事手続きですが、任意整理は、その手続きについて定める法律はなく、弁護士が金融業者と個別に行う民事交渉手続きであるという点です。

自己破産や個人再生は、法律で手続の内容やその結果が定められていて、また多数の裁判例がありますので、これらの手続きを行った場合の結果は比較的容易に推測できます。

他方、任意整理は、法律の規定はなく、業者側に任意整理に応じる義務もないですので、分割弁済の合意ができるとしても、その条件は業者によって区々になります。

また、同一業者でも、業者内の取り決めにより特定の日を境に一般的な任意整理の条件を厳しくすることがあり、任意整理を受任した際に想定していた和解内容より、実際の和解内容が厳しくなってしまったこともあります。

このように、任意整理は結果の予測が比較的難しい手続きであるということは認識しておいてください。

消滅時効のご相談

今月は時効援用のご相談を比較的多く受けました。時効援用の相談に来られる方の相談申込みのきっかけの多くは、①クレジットカード等を申し込んだところ審査に落ちたため、信用情報を取り寄せたところ、返済をストップして放置していた昔の借り入れが延滞として登録されていた、というようなパターンか、②業者(債権者と言います)から昔の借り入れについて請求書等が届いた、というようなパターンです。今月は、②のパターンが多かったです。

②の場合、請求書を送ってくる業者は元々の借り入れを行った業者(例えばアイフルなど)の場合もありますし、それらの業者から貸付金債権等を譲り受けた債権回収会社の場合もあります。

②の場合に注意していただきたいのは、突然届いた請求等に驚いてその書類に記載されている番号にすぐに電話し、分割払いの相談などは絶対にしない、ということです。消滅時効は、時効期間が経過していたとしても、債務(負債)の存在を承認してしまうと(分割払いの相談も債務の存在を承認していることが前提の行為です)、時効期間がリセットされてしまい、債務を承認した時からあらためて民法(または商法)所定の時効期間が経過しないと時効の主張(これを時効の援用と言います)ができないことになってしまいます。

返済をストップしてから長期間経過している債務について請求書等が届いた場合は、焦らずにまず弁護士に相談してください。

過払金返還請求のご相談について

今回は、弁護士として過払金返還請求のご相談に対応する中で、よくある誤解について少しご説明しようと思います。

1 過払金が発生するケースの基本は、貸金業法(旧貸金業規制法)が適用される業者から、利息制限法の上限金利を超える貸付利率で借り入れを行い返済していた、ということになります。なお、極度額の範囲で借り入れと返済(リボ払い)を繰り返す継続的金銭消費貸借取引で、取引開始当初は利息制限法の上限金利を超えていたものの、途中から上限金利以下になったという場合でも、過払金が生じる可能性があります。

貸金業法は、かつて、みなし弁済という制度を設けていて、みなし弁済の条件を満たしていれば、利息制限法の上限利率を超える利率による利息の受領も適法になるとされていました。

しかし、このみなし弁済の適用条件を満たしていないとして裁判所で訴訟が展開され、最高裁判決によりみなし弁済はほぼ認められないということになったため、利息制限法の上限利率を超える部分の利息の受領が無効となり、過払金として返還を請求する対象となったわけです。

2 貸金業法が適用されるのは、消費者金融会社やクレジットカード会社になりますので、貸金業法が適用されない金融機関、例えば銀行や信用金庫からの借り入れについては、過払金が発生することはありません(貸金業法が適用されない以上、貸金業法が定めていたみなし弁済制度も適用されないからです)。

また、貸金業法の適用対象となる業者(とくにクレジットカード会社)に対する負債でも、過払金が発生するのは借入金(キャッシング、ローン)となりますので、立替金(ショッピング、車のローンなど)について過払金が発生することはありません(貸金業法はその名のとおり金銭の貸付について適用される法律です)。

さらに、法改正によりみなし弁済は2010年6月18日に廃止されましたが、多くの消費者金融会社およびクレジットカード会社は、2007年頃までに新規契約者の貸付利率を利息制限法の上限金利以下に引き下げていますので、それ以降に新規契約を締結して借り入れを開始しても、過払金が発生することはありません(なお、元々利息制限法の上限金利内で貸し付けを行っている業者もあり、このような業者と長期間取引していても過払金が発生することはありません)。

以上をまとめますと、

① 銀行や信用金庫からの借り入れについては、過払金は発生しません。

② ショッピング債務(車のローンなどショッピングクレジットも含みます)について過払金が発生することはありません。

③ 利息制限法の上限利率以下の利率で契約をして借り入れをしている場合は、過払金は発生しません。

今回は以上となります。

個人再生のご相談にあたって

1 債務整理の相談の傾向

債務整理のご相談は、返済期限が迫ってきたけど返済に充てるための原資を確保できない、という方から多く受けますので、必然的に、弁護士等にすぐに相談したいという方も多くなります。

ただ、一般的に、法律相談をお受けするにあたっては、必要書類等のご準備をお願いすることも多く、これは、債務整理でも同様です。

とくに、個人再生では、住宅資金特別条項を利用できるかどうかという点や、最低弁済額がどの程度になるのかということをご相談の中で判断する必要があり、そのためには、ご相談者の方に必要な資料を持参していただく必要があります。

2 住宅資金特別条項についての資料

住宅資金特別上告(住宅ローン特則)を利用する個人再生の場合、借り入れた住宅ローンが住宅資金貸付債権に該当するかどうかを判断しなければなりません。

そのためには、住宅ローンについての金銭消費貸借契約書など住宅ローンに関する書類を確認する必要があります。

借り入れた住宅ローンの使途について、「住宅購入資金」の他に、例えば「返済」にもチェックがある場合は(自宅を買い換えた場合、新たな自宅を購入する借り入れた住宅ローンの一部が、前の自宅を購入した際に借り入れた住宅ローンの残額の返済に充てられていることがあります)、借り入れた住宅ローンが全体として住宅資金貸付債権に該当するかどうかを慎重に検討しなければなりません。

3 最低弁済額についての資料

最低弁済額について判断するためには、小規模個人再生の場合、①負債の総額と、②財産の総額を確認する必要があります。

①の負債の総額については、最近ではスマホ等ですぐに確認できることが多く、資料の準備にそれほど手間はかからないと思いますが、②の財産の総額については、退職金見込額(現時点で自己都合退職した場合に支払われる見込みの退職金の金額)に関する資料、加入している保険についての解約返戻金の金額についての資料、車や自宅について時価額がわかる資料(査定書)などが必要になることがありますので、資料の準備には少々時間がかかることもございます。

例えば、住宅資金特別条項を利用する手続きを利用する予定で、住宅ローンが2000万円、住宅ローン以外の負債が900万円の場合、自宅の査定額が3000万円だったとすると、自宅の価値は1000万円となりますので、個人再生手続きを行ったとしても、返済しなければならない負債は減額されないことになります。

個人再生のご相談を希望される方は、このような財産についての資料の収集にすぐに着手されるとよいかと思います。

破産のご相談の際に注意していただきたいこと

個人の破産手続では、同時廃止で進めることが可能なのか、それとも管財事件になるのか、という点が一つのポイントとなります。

なぜなら、管財事件となると、管財人への引継予納金が必要となりますし、同時廃止事件と比べて弁護士費用も割高になるためです。

同時廃止で進めることが可能かまたは管財事件になるのかを区別する大きな基準は、財産の有無です。

例えば、現時点で自己都合退職した場合の退職金見込額が160万円を超える場合、その8分の1の金額は20万円を超えることになりますので、千葉地方裁判所およびその支部では管財事件として扱われることになります。

そのため、ご相談の際には、事前に退職金見込額の金額を確認していただくことが重要になります。

また、自動車を所有し、その時価額が20万円を超えている場合も管財事件となります。そして、千葉地方裁判所およびその支部では、私がこれまでに担当した案件を前提としますと、例えば初度登録から何年経過していれば価値がないものとみなす、というような取り扱いはしていないようですので、とくに中古価格が下がりにくいタイプの車両については、ご相談前に中古車販売店等の査定金額を確認していただく必要があります。

さらに、保険についても、解約返戻金見込額が20万円を超える場合は管財事件となります。保険についてとくに注意していただきたい点は、破産のご相談をするご本人ではなく、そのご両親や配偶者がご本人を契約者として保険に加入し、その保険料も支払っている場合、保険の存在そのものを知らないこともあります。

このような保険であっても、解約返戻金見込額が20万円を超えていれば、管財事件として取り扱われることになります(なお、複数の保険の解約返戻金見込額の合計金額が20万円を超える場合は、同様に管財事件となります)。

なお、親が勝手に契約名義を自分にして保険を契約し、その保険料も親が支払っており、自分はその保険の存在すら知らなかったのであるから、その保険は親のものではないか、と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、保険がだれのものであるかを認定するためには調査が必要であり、その調査を行うのは破産管財人ですので、管財事件となるのは避けられないところです。

破産のご相談の際は、保険についてもあらかじめ確認してください。

債務整理を依頼いただく際の注意点について

1 債務整理の費用の分割払い

債務整理(自己破産、個人再生、任意整理)のご相談を申し込む方の多くは、ご相談の時点では流動資産(預貯金等)がほとんどありません。そのため、多くの法律事務所は、債務整理の弁護士費用(着手金、実費など)は分割払い可能としています。

一般の民事事件や刑事事件の場合は、着手金や実費は契約時に一括でお支払いいただくことがほとんどですので(分割払いを希望される場合は基本的に依頼をお断りすることになります)、債務整理の費用の分割払いの取り扱いは例外となります。

ただし、分割払いの場合でも、自己破産や個人再生の申立てや、任意整理の交渉は、原則として、分割払いによる費用の積み立てが完了してから行うことになります(費用の積み立てが完了するまでは、弁護士は主に債権者対応を行います)。分割払いでも依頼すればすぐに申立てに着手してもらえると誤解されている方が時々いらっしゃいますので、ご注意ください(なお弁護士に債務整理を依頼した段階で、対象業者への返済はストップしていただくことになります。この点についても、依頼後も返済継続が必要だと誤解されている方がいらっしゃいますのでご注意ください)。

また、事案の内容によっては(直ちに破産申立てが必要なケースなど)、分割払いではお受けできないこともあります。

2 督促が止まる

法律事務所のウェブサイトでは、弁護士に債務整理を委任すると督促が止まる旨が記載されています。

これは、消費者金融会社や債権回収会社、信販会社は、弁護士から債務整理の受任通知を受け取った場合、債務者の方への直接の督促が法律により禁止されるためです。

銀行については、このような直接の督促等を禁止する規定はないため、弁護士が債務整理の受任通知を送付した後も銀行から債務者ご本人宛に直接郵便が届くことがたまにありますが、弁護士が代理人として就任した場合は、連絡や郵便物の送付は代理人宛にしてくれるのが通常です。

しかし、知人から借金をしている場合など個人の債権者がいる場合、銀行と同様に直接の督促等を規制する法律はなく、弁護士から送付する受任通知には今後債務者本人には連絡せず弁護士宛に連絡をするよう要請する文言を記載するものの、法律的には「お願い」の域にとどまりますので、受任通知送付後も個人債権者が債務者への直接の督促を継続する場合は、電話の場合は着信拒否(郵便の場合は受け取り拒否)で対応できますが、直接自宅まで押しかけてきた場合は、状況によって警察の出動をお願いするしかないでしょう。

破産犯罪

1 2022年9月に、自己破産手続き前に保有する暗号資産(仮想通貨)を隠蔽したとして37歳の男性が逮捕されたというニュースが報道されました。破産法は、第14章で罰則を定めていますが、男性は、詐欺破産罪について規定する265条1項1号の罪で逮捕されています。報道によると、暗号資産の隠蔽行為に同法違反容疑を適用するのは珍しいことのようです。

この男性は、約3000万円の損害賠償債務を負っていたため破産手続を行ったところ、破産管財人の調査で暗号資産を隠していることがわかり、破産管財人が回収した暗号資産の価値は約1600万円まで値上がりしていたようです。

報道によると、この摘発は、暗号資産のマネーロンダリングを阻止するという当局の姿勢を表したものとのことです。

2 破産法265条1項は、「破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(…)について破産手続開始の決定が確定したときは、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第4号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。」とし、1号で「債務者の財産(…)を隠匿し、又は損壊する行為」、2号で「債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為」、3号で「債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為」、4号で「債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為」を規定しています。

報道によると、逮捕された男性は、破産手続きが始まる前に15回にわたり国内で保有していたビットコインなど9種類の暗号資産をアイルランドの取引所に移動させていたとのことですので、この行為は1号の「隠匿」に該当することになります。

法定刑は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金ですので、詐欺破産罪は決して軽い罪ではありません。

破産のご相談の際、「車の名義は妻に変えたほうがいいですか?」などと質問されることがありますが、それは「破産犯罪をしたほうがいいですか?」ということであり、そのような質問を受けた時点で相談は打ち切りです。破産を検討中の方は、弁護士に相談する前に、破産法265条以下の破産犯罪の条文(ネットで検索すれば条文を確認できます)を一度確認してみてください。

住宅資金特別条項の利用と住宅資金貸付債権2

1 8月に「住宅資金特別条項の利用と住宅資金貸付債権1」を投稿していましたが、今回は第二弾の投稿になります。

まず、住宅資金貸付債権についてのおさらいです。

民事再生法198条1項は、住宅資金貸付債権について、再生計画において住宅資金特別条項を定めることができると規定し、同法196条3号は、住宅資金貸付債権について、「住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。」と定義しています。

つまり、住宅ローンなら何でも住宅資金特別条項を定めることができるわけではなく、「住宅資金貸付債権」に該当しなければ住宅資金特別条項は利用できないということです。

2 前回は住宅ローンの借り換えをご説明しましたので、今回は住宅の買い替えに伴い借り入れた住宅ローンが「住宅資金貸付債権」に該当するかどうかを検討します。

【ケース1】2LDKのマンションを3000万円で購入したAさんは、子供が二人生まれたため、4000万円の3LDKのマンションを購入して転居することにしました。2LDKのマンションの住宅ローンは2500万円残っていましたが、マンション周辺の再開発で価格が高騰し2600万円で売却することができたため、2LDKのマンションの住宅ローンは全額返済することができ、3LDKのマンションを購入する際に新たに住宅ローンを組みました。

【ケース2】ケース1の事例で、2LDKのマンションは駅から徒歩15分以上かかる場所にあるため価格が下がっており、2100万円でしか売れない見込でした。

つまり、2LDKのマンションを売却しても住宅ローンは400万円残ってしまうことになります。

そこで、3LDKのマンションについて住宅ローンを組む際、購入費用4000万円に400万円を上乗せして借り入れ、その400万円を2LDKのマンションの住宅ローンの返済に充てました。

【ケース3】ケース2で、2LDKのマンションには日常生活には大きな支障はないものの欠陥があり500万円でしか売れない見込でした。そこで、3LDKのマンションの購入費用4000万円に2000万円を上乗せして住宅ローンを組み、2LDKのマンションの住宅ローンの返済に充てました。

3LDKのマンションを購入した際に組んだ住宅ローンが住宅資金貸付債権に該当するのかどうかが問題ですが、ケース1は問題なく該当します。借り入れた住宅ローン全額が3LDKのマンションの購入費用に充てられているからです。

ケース2は、3LDKのマンションの住宅ローン4400万円のうち400万円が買い替え前のマンションの住宅ローンの返済に充てられているところ、買い替え前のマンションは民事再生法196条3号の「住宅」には該当しませんので、400万円は住宅購入資金に該当しません。ただ、買い替え前の住宅ローンの返済に充てられた金額(400万円)は住宅ローン総額(4400万円)の1割程度と少ないですので、全体として住宅資金貸付債権の性質は失われないと判断されることが多いでしょう。

しかし、ケース3の場合、3LDKのマンションの住宅ローン6000万円のうち2000万円が買い替え前の住宅ローンの返済に充てられており、その割合は3分の1にもなりますので、通常、住宅資金貸付債権とは認められないでしょう(「通常」としたのは、このようなケースでも住宅資金貸付債権であることを前提として手続きを進めた裁判所があるからです。弁護士としては、裁判所によって扱いが異なると、ケース3のような案件で個人再生の依頼を受けていいものかどうか、非常に迷います)。

なお、住宅資金貸付債権に該当するかどうかについては、一般の方がネット等(本ブログも含みます)から得た知識のみで判断することはリスクがありますので、住宅ローン等の資料を用意して必ず弁護士に相談してください。

住宅資金特別条項の利用と住宅資金貸付債権1

1 民事再生法198条1項は、「住宅資金貸付債権(カッコ内省略)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。」と規定し、同法196条3号は、住宅資金貸付債権について、「住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払の定めのある再生債権であって、当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。以下「保証会社」という。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいう。」と定義しています。

2 住宅ローンについて借り換えを行う場合、従前の住宅ローンの一括返済分に加えて、他の用途に利用する金銭もあわせて借り入れる場合があります。

この場合、従前の住宅ローンが住宅資金貸付債権に該当していたのであれば、その返済に充てられた金額については住宅資金貸付債権になりますが、他の用途に利用する金銭については、その使途により判断する必要があります。ここでは、借り換えにより総額2750万円を借り入れて抵当権を設定し、うち2500万円を従前の住宅ローンの返済に、他残りの250万円を他の用途に充てたとします。

例えば、家の壁や床をリフォームするために250万円を使った場合、家や壁のリフォームは個人再生法196条3号が規定する「住宅の改良に必要な資金」になりますので、この250万円の部分も住宅資金貸付債権になります。

しかし、250万円を屋根に設置する太陽光発電システムの購入資金に充てた場合、取り外しのできる発電設備を購入したということになりますので(自家発電機の購入と同視できます)、住宅の改良に必要な資金とまでは言えなくなります(なお、住宅の改良に必要な資金に該当するという見解もあり得ます)。

そうなりますと、住宅資金特別条項は使えないということになりそうですが、この事例では、借入総額2750万円のうち太陽光発電システムの購入に充てたのはわずか1割の250万円ですので、実務上は、借入金全体として住宅資金貸付債権の性質は失わず、住宅資金特別条項の利用が認められるということになるでしょう。

なお、千葉地方裁判所では、弁護士が代理人として個人再生の申立てを行う場合は原則として個人再生委員が選任されますが、上記のような法律上の問題(ここでは住宅資金貸付債権に該当するかどうかの問題)がある場合は、裁判所は個人再生委員の意見を聴取したうえで手続きを進めますので、千葉地方裁判所でも個人再生委員が選任されることになります。

物価上昇と個人再生・任意整理

⑴ 千葉駅の構内に人気つけ麺店の松戸富田製麺があります。私はいつもつけ麺の中盛を注文していましたが、値上げになりましたので、並盛に変更しました。ちなみに中盛は麺が270グラム、並盛は220グラムです。並盛だと少し少ないが中盛だと少し多いかな、という感じです。なお、お土産のつけ麺の麺は250グラムですので、ちょうどいい量です。

並盛も中盛もスープの量は同じくらいで、富田製麺のスープが好きな私にとっては中盛だとスープがやや足りないという感じでした。

⑵ さて、食料品等の生活必需品も値上げが行われ、今秋にももう一段の値上げが予想されています。

また、政策金利上昇により、変動金利で住宅ローンを借りている方は利息の負担が重くなることも見込まれます。ただ、政策金利を引き上げる(=日銀当座預金に付利する)と、日銀が支払わなければならない利息が増え、また日銀が保有する国債の時価も下がり債務超過に陥りかねないため、実際に政策金利を引き上げることができるのかどうかは不透明です。

⑶ なお、この日銀当座預金について、当座預金なのだから利息は付かない、つまり利息の負担が生じることはない(=日銀が破綻することはない)と解説している動画を見ましたが、ここで問題なのは、異次元金融緩和によりこれだけお金が市中にあふれている状況でどうやって政策金利を引き上げるか、という点です。米国のFRBは準備預金(日銀当座預金に相当)に付利することで政策金利を引き上げましたが、日本では日銀当座預金に付利することで引き上げざるを得ません(なお、仮に日銀当座預金の利息を年1%にすると、民間銀行は年1%以下で貸付を行うことはしませんので、市中の金利が上がることになります)。

⑷ 個人再生や任意整理は、返済を前提とした手続きですが、今後の物価上昇や変動金利の場合の住宅ローンの金利上昇も想定して返済可能かどうかをシミュレーションしなければなりません。弁護士との法律相談でいきなりこのシミュレーションを行うのは困難ですので、相談前に、場合によってはファイナンシャルプランナーにも相談してシミュレーションを行っていただくとよいのではないかと思います。

非招集型管財手続き

1 千葉地方裁判所の本庁では、破産管財人が選任される破産手続について、非招集型管財手続きという手続きを導入しています。なお、松戸支部や佐倉支部などの支部ではまだ導入されていないようです。

この非招集型管財手続きというのは、その名のとおり、債権者集会を行わない管財手続きです。債権者集会は平日に行われますので、非招集型管財手続きになった場合は、債権者集会に出頭するために有給休暇を取得する必要はなくなります。

なお、破産手続で配当を行う場合は、債権者集会を行う必要がありますので、配当が行われる可能性がある案件については、債権者集会が行われる手続き(これを招集型といいます)になります。個人の方の破産手続では、例えば不動産がある場合は、破産管財人がその不動産を売却することにより配当原資が形成される可能性がありますので、原則として招集型になります。

また、非招集型で開始した場合でも、配当原資が形成された場合は、債権者集会期日が指定されることになります。

2 非招集型管財手続きのメリットは、上述したとおり、債権者集会に出頭するために休み(有給休暇)を取る必要がない、という点にあります。ただし、新型コロナウイルスの蔓延により最初の緊急事態宣言が発令されてからは、債権者集会期日が設定されている場合でも、破産管財人の意見により申立人(破産者)およびその代理人弁護士の出頭が不要になるケースもかなりありますが、出頭不要かどうか決まるのは債権者集会の1週間前頃ですので、出頭の要否がわかるまで予定を入れることはできません。なお、千葉地裁の支部については、破産者およびその代理人弁護士について破産管財人の意見により債権者集会への出頭を不要とする扱いはしていないようです。

他方、非招集型管財手続きでは、官報公告の回数が増えるため、裁判所に予納する官報公告費が約5000円増加しています。

また、破産手続が終了する(破産手続廃止になる)までの期間は、債権者集会が行われる場合よりも2か月ほど長くなります。ただし、免責決定は破産手続廃止の約2か月前に出されますので、復権の時期という観点からは、招集型とそれほど変わりません。

ETCカード

1.債務整理を行う場合は、当然ですが対象となるクレジットカードは使えなくなります。水道光熱費や電話料金などがクレジットカード払いとなっている場合は、その支払い方法を口座振替や納付書払いに変更する必要があります。

支払方法を変更しないと、クレジットカード会社から変更するよう催促の連絡があります。任意整理の場合は、支払方法を変更しないと債権額が確定しないため、手続きを進めることができません。

2.水道光熱費や電話料金等、日々利用しているものについては、支払方法がクレジットカードになっていればすぐに気付くと思います。

しかし、月々数百円程度のネットコンテンツの会費などの場合、申し込んだことも、毎月支払っていることも忘れてしまっていることがあります。

弁護士に債務整理の相談をする前に、クレジットカードの利用明細を確認し、毎月引き落とされているものをチェックしておくとよいでしょう(年会費等、1年に1回クレジットカードで支払っているものも同様です)。

3.頻度としてはそれほど多くはないですが、任意整理の受任後、または任意整理による和解成立後に、任意整理を行ったクレジットカード会社から、ETCカードの利用があったとの連絡があることがあります。

債務整理に入れば、クレジットカード会社は当然、クレジットカードやETCカードを利用停止にしますので不思議に思っていたのですが、あるクレジットカード会社の担当者から、ETCカードは安全のため継続利用できるようにしている場合があると聞き、納得しました。

つまり、債務整理を行ったクレジットカード会社のETCカードを誤って機器に入れっぱなしにしたままETCのゲートに突入してしまった場合に生じうる危険を防ぐということです。

4.もちろん、利用停止になっていないからといって、債務整理を行ったクレジットカード会社のETCカードを故意に使うことは問題です(ETCの利用が頻発すればクレジットカード会社もカードを利用停止にするでしょう)。

そのため、債務整理をご依頼いただく際は、ETCカードをお持ちの場合は預けていただくことにしています。

過払金についてのご相談お申し込みの際の注意点

過払金返還請求については,最大手の消費者金融会社であった株式会社武富士が倒産した2010年前後が最も隆盛で,裁判所の法廷の入り口に貼られている期日表を見ると,多くが過払い金返還請求訴訟でした。

過払金の問題が発生したため,多くの消費者金融会社やクレジット会社は,2007年から2008年ころには新規契約の貸付利率等を利息制限法が定める上限利率内に変更しており,既存契約についても,その時期にはバラツキがありますが,利率を利息制限法の上限利率内に変更しました。
2010年ころは,消費者金融等と6,7年程度継続して借り入れと返済を繰り返していれば,多くが過払いとなっていましたので,弁護士等のウェブサイトにも,6,7年程度継続して取引があれば過払いが生じている可能性がある旨の記載がありましたが,現在では,7年前でも2013年ですので,そのようなことはありません。
過払い金返還請求についての説明を更新していないウェブサイトを読むと誤解が生じる可能性がありますので,注意が必要です。

また,(極度額100万円未満で)利息制限法の上限利率である年18%を超える利率で例外的に貸し付けることができたのは,消費者金融やクレジットカード会社です。この例外が認められるためには一定の要件(特定の内容を記載した書面の交付など)を満たす必要がありますが,満たしていないとする裁判例が相次ぎましたので,このように多数の過払い金返還請求が行われているわけです。

しかし,この例外は銀行には適用されません。つまり,銀行は,利息制限法の上限利率を超える利率で貸付を行うことはできません(上限を超える利率で貸し付けると完全に違法になります)。
最近,銀行のカードローンについて過払金の問い合わせが増えていますが,銀行からの借りれについてはそもそも過払い金は発生しませんので,ご注意ください。

また,上で述べたように,多くの消費者金融会社やクレジットカード会社は,2007年から2008年ころに新規契約について貸付利率を利息制限法の上限利率内に変更しています。本日まで10年間借り入れと返済を繰り返していても,新規契約は2010年ですので,過払金は発生していません。

ただし,消費者金融等との現在の契約が例えば2017年だとしても,同じ業者についてそれ以前に,例えば2000年から2013年の間に借り入れと返済を繰り返していたという場合は,2013年までの取引について過払いが発生している可能性があり,その過払い金と,2017年以降の取引の残高を相殺して処理することが可能になりますので,一度ご相談ください。

 

新型コロナウイルスの影響と債務整理について(2)

⑴ 住宅ローンがある場合

2020年8月7日の時事通信社「時事ドットコムニュース」に,「新型コロナウイルスの影響で収入が激減した家庭や個人事業主を対象に、金融庁と全国銀行協会が住宅ローン返済の減免措置を検討していることが、7日分かった。」「一方、金融機関は既に、収入減少でこれまで通りの返済が困難となった家庭には返済の繰り延べなどを行っている。」という記事が掲載されていました。

住宅ローンの減免措置とは,大規模な自然災害の被災者に対する債務整理指針の適用対象にコロナ禍による経済困窮者を加える案のことですが,このブログを書いている時点ではまだ成立していません。

しかし,記事にもあるように,金融機関は既に新型コロナウイルスの影響で収入が減少し,住宅ローンを予定通り返済することができなくなった家庭に返済の繰り延べを行っています。

新型コロナウイルスの影響で収入が減少し,返済が厳しくなった方で,住宅ローンがある場合は,まず住宅ローンを借りた金融機関に相談してみてください。

住宅ローンのリスケジュールにより他の借り入れ,クレジットカード等の返済ができるようになれば,信用情報に事故情報が掲載されることもありません。

住宅ローンのリスケジュールをしても他の借り入れ等の返済が厳しい場合,または住宅ローンのリスケジュールができない場合は,住宅ローン以外の負債について任意整理を行うか,住宅資金特別条項を利用した個人再生(住宅ローンはそのまま返済しますので,自宅を残すことができます)を検討することになります。

⑵ すぐに弁護士に相談してください

新型コロナウイルスの影響で収入が減少し,返済が厳しくなったため,借入額を増額したり,別の業者から新たに借り入れを行ったりする方がいらっしゃいます。

しかし,それは一時的な効果しかない対症療法で,新たに借り入れができなくなった時点で行き詰ります。住宅ローンがあるケースで,住宅ローン以外の負債も多く個人再生を行っても返済が厳しいという場合は,自己破産せざるを得なくなります。

自転車操業に陥る前に,必ず弁護士に相談してください。

新型コロナウイルスの影響と債務整理について(1)

新型コロナウイルスの影響により収入が減少し,または退職せざるを得なくなったため,カードローンやクレジットカードの支払いが厳しくなったという相談が増えています。

そこで,今回は,上記のような状況の方がどのような債務整理の方法を選択すればよいのかについてご説明します。

⑴ 新型コロナウイルスの影響で収入が減少したものの,数ヶ月程度ですぐに回復することが見込まれるケース

このようなケースでは,まずクレジットカード会社等に連絡し,事情を説明して返済額の減額または猶予の申し出を行ってみてください。

クレジットカード会社等も,相当数のクレジット契約者に新型コロナウイルスの影響による収入減少が発生していることを認識していますので,数ヶ月程度であれば,返済猶予等に応じてくれる場合があります。返済猶予に応じてくれた場合は,基本的に信用情報に傷がつくこともありません。

クレジットカードカード会社等が返済猶予等に応じてくれない場合は,一度弁護士にご相談ください。

⑵ 新型コロナウイルスの影響で収入が減少し,その状態が比較的長期間継続すると見込まれるケース

このようなケースでは,減少後の収入を前提として収支状況を検討し,返済に充てられる金額を算出し,弁護士に相談してください。

返済に充てられる金額が任意整理を行うことにより想定される返済金額よりも多い場合は,任意整理を選択します。任意整理であれば,例えば自動車ローンがあったとしても,それを除外して行うことができますので,自動車を残すことができます。ただし,自動車ローンも任意整理を行わなければ返済が難しいという場合は,自動車ローンも任意整理を行うことになります。

返済に充てられる金額が任意整理を行うことにより想定される返済金額よりも少ない場合は,自己破産または個人再生を検討することになります。自己破産または個人再生を行った場合は,自動車ローンも対象となりますので,原則として自動車は引き揚げられることになります。

次回に続きます。

弁護士法人倒産のニュース

弁護士法人心では,本年6月1日,三重県四日市市にあらたに弁護士法人心 四日市法律事務所を設立しました。近鉄四日市駅から徒歩1分の場所にありますので,自己破産,個人再生,任意整理などの債務整理,過払金返還請求,交通事故,遺産分割,遺言作成,相続放棄,相続税申告等,お気軽にご相談いただければと思います。

https://www.yokkaichi-bengoshi.com/

 

最近,弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所について破産手続が開始し,負債は51億円あるとの報道に接しました。

また,消費者金融等から回収した過払い金を流用していたとの報道もあります。

 

弁護士が依頼者の方の代理人として過払金返還請求手続を行い,消費者金融やクレジット会社から過払金の返還を受ける場合,振込先口座として通常,弁護士(または弁護士法人)の預り金口座を指定し,弁護士報酬等を差し引いて依頼者の方にお返しします。

弁護士報酬等を差し引いた後の残額は依頼者の方の金銭ですので,そのまま依頼者の方にお返しする必要があり,法律事務所の経費等として流用することは許されません。

 

では,代理人に預けていた金銭を流用され,返還を受けられなくなった場合,法律的にはどうなるのでしょうか。

消費者金融等は,代理人である弁護士により締結された和解契約に基づき,その和解契約で指定された銀行口座に過払金を返還していますので,消費者金融等の過払金返還債務はそれにより消滅しています。つまり,消費者金融等に対しあらためて過払金の支払を請求することはできません。

となると,流用した弁護士に対して不動利得返還請求ないし損害賠償請求をするしかありませんが,その弁護士に資力がない場合は,事実上,返還を受けることは困難になります。

 

弁護士は依頼者の方の金銭を預かることも多いですので,依頼者の方との信頼関係を維持することが重要となります。私は過払金返還請求事件も担当しておりますが,依頼者の方の不安,心配をできるだけ軽減するため,消費者金融等からの入金確認後,ただちに費用の精算を行い,入金から2~3営業日以内に,依頼者の方に指定いただいた口座にお返しすることを心がけております。

 

弁護士法人東京ミネルヴァ法律事務所に債務整理を依頼していた方について,同法人が所属している第一東京弁護士会は相談窓口を設置していますが,弁護士法人心でもご相談を承っており,平日夜間,土日のご相談も可能ですので,お気軽にご相談いただければと思います。

緊急事態宣言

1 私が所属している柏駅法律事務所がある千葉県や東京都では,4月7日に緊急事態宣言が発令されましたが,それに伴い,5月の連休までに指定されていた千葉地方裁判所および千葉家庭裁判所(それぞれ支部も含みます)のほとんどの期日(裁判や調停など)が取り消されました。

その後,東京都や千葉県では5月31日まで緊急事態宣言が延長されましたので(なおご承知のとおり25日解除されました),千葉地方裁判所や千葉家庭裁判所の期日も5月29日の分まで取り消されました。

私は4月6日に債権者集会に出席するため千葉地方裁判所松戸支部に行きましたが(この日は出席者全員がマスクをし,部屋の窓は全開に近い状態でした),それ以降,本日に至るまで,松戸の裁判所には行っていません。6月8日に債権者集会に出席するため久しぶりに松戸の裁判所に行く予定です。

緊急事態宣言により,裁判所の業務も縮小していたようで,裁判所の職員も出勤日数を減らしていたようです。私も4月から5月にかけて少額管財の破産を数件申し立てましたが,いずれの案件も本日現在開始決定は出ていません(ただし,財産保全の必要性があるなど緊急性の高い破産の案件は開始決定が出ているようです)。

また,4月中に既に書面決議期間が満了している個人再生の案件も,まだ再生計画認可決定は届いていません。

裁判所の業務停滞は,国民の権利保護にも影響を与えますので,これを機に対策が進むことを期待しています。

2 緊急事態宣言により,消費者金融やクレジット会社も業務を縮小しており,返済が遅れた場合の督促も厳しくなかったと聞いていますが,今後は通常業務に戻りますので,緊急事態宣言前の状態に戻ると思います。

消費者金融やクレジット会社から借り入れがある方で,新型コロナウイルスの影響で給料が下がったり,または失業してしまった場合,今後の返済をどうするかということを検討する必要があります。

債務整理には,業者と個別に交渉して返済条件を変更する任意整理や,裁判所で行われる個人再生,自己破産がありますが,新型コロナウイルスによる給料の減少や失業が一時的かどうかによっても手続の選択は変わってきます。

私が所属する弁護士法人心では,新型コロナウイルスによる収入減少等により借入金等の返済が困難になった方のご相談に対応するため,債務整理担当の弁護士を増強しております。お気軽にご相談いただければと思います。

借入金,クレジットカードの返済が困難になった方へ

⑴ 新型コロナウイルスの影響により収入が減ったため借入金やクレジットカードの返済が厳しくなり,債務整理の相談を希望されている方も増えているかと思います。

しかしながら,当法人柏駅法律事務所がある柏市等を業務範囲とする日本司法支援センター法テラス松戸では,非常事態宣言の発令にあわせて無料法律相談の配点を当面ストップするとのことであり,法テラスの民事法律扶助を利用して債務整理を行うためには,法テラスの民事法律扶助を取り扱っている弁護士に皆様が直接相談し,申し込みを行う必要があります。

当法人柏駅法律事務所では,民事法律扶助を利用した債務整理のご依頼を承っておりますので,お気軽にご相談いただければと思います。

以下では,債務整理の手段について,簡単にご説明します。

⑵ 新型コロナウイルスの影響で収入が減少したものの,それ以上の減少は見込まれず,返済に充てる余裕額がある場合は,任意整理または個人再生を検討いただくことになります。

任意整理は,消費者金融会社やクレジットカード会社と各別に交渉し,返済の条件を変更するものです。通常は,現在の残高を36~60回分割(業者によっては60回を超える回数での合意も可能です)で返済するという内容になり,将来利息は免除(0%)になります。任意整理を行うと,通常は,月々の返済額はある程度減ります。

任意整理を行った場合に想定される月々の返済額でも返済が厳しいと予想される場合は,個人再生を検討します。個人再生は裁判所で行われる手続ですが,法律の規定にしたがって減額された債務を原則36回(3年間),最長60回(5年間)で返済すれば,残額は免除されます。

例えば,負債が360万円で,預金等を合わせた財産が50万円の場合,100万円(小規模個人再生の場合)を3年間から5年間で返済することとなりますので,月々の返済額は1万7000円程度から2万8000円程度になります。任意整理の場合は,360万円の60回(5年間)払いでも月々6万円の返済になります。

⑶ 新型コロナウイルスの影響で収入が激減し,返済に充てられる金額を捻出できない方,および,今は返済に充てられる金額を捻出できても今後さらに収入の減少が見込まれ,近い将来捻出できなくなる可能性がある方は,自己破産を検討してください。

自己破産を行い,免責を許可する決定が確定すれば,税金等の非免責債権(破産してもなくならない負債)を除き,返済義務が免除されます。返済義務が免除されれば,負債について悩む必要がなくなりますので,仕事や生活の再建に注力することができます。

弁護士に債務整理を依頼すれば,消費者金融等からの催促がストップしますので,お気軽に当法人までご相談いただければと思います。

任意整理の動向

個人の方の債務整理には,主要な手段として自己破産,個人再生,任意整理があります。このうち,自己破産と個人再生は裁判所で行われる手続になり,任意整理は対象となる貸金業者またはクレジットカード会社と弁護士が個別に交渉を行う手続きとなります。

自己破産と個人再生は,手続について法律に規定があり,また各地方裁判所での実務(例えば自己破産手続における自由財産の拡張についての実際の取扱いや,同時廃止と管財事件の振り分けなど)についてもある程度明確になっていますので,その手続を採用した場合の結果について予測することは比較的容易です。
もちろん,小規模個人再生の場合に,どの債権者が再生計画案に反対するのかについてはやや不明な点はありますが,反対しない債権者がほとんどであり,反対する可能性が高い債権者についてはある程度ネット上に情報が出ています。そのため,債権者の反対により再生計画案が認可されないおそれがある場合は,給与所得者等再生または自己破産を選択することができます。

しかし,任意整理の場合,業者毎に個別に交渉しますので,任意整理についての業者の扱いに変更があった場合には,任意整理後の返済額が当初の想定より多くなる場合があります。ここ数年でも,任意整理による返済回数の上限を60回(5年間)に変更したクレジット会社がありましたし(それ以前は60回を超える回数での合意が可能でした),最近では,それまで84回払いで合意ができていたクレジット会社について,72回までと言われるようになりました。
例えば,負債額が100万円の場合,84回払いですと月々約1万2000円の返済となりますが,72回払いですと月々約1万3900円となります。

それほど差はないのではないかと思われるかもしれませんが,例えばクレジットで購入した自動車があり,生活に自動車が不可欠な場合,自己破産や個人再生を選択すると所有権留保条項により自動車はクレジット会社によって引き揚げられますので,自動車をどうしても残したいという場合は,任意整理を選択するしかありません。そのような場合,任意整理後の返済もギリギリであることがあり,1000円,2000円の違いが大きく影響します(なお,任意整理を行っても返済が難しいという場合は,私は任意整理での受任はお断りしています。)。
家族に借金や債務整理について知られたくないため任意整理を選択する場合も同様です。

最近は任意整理についての業者側の対応も厳しくなっていると感じることが多くなっていますので,相談者の方の収支状況からみて,厳しめの条件を前提として想定される任意整理後の返済額だと返済が厳しいと判断される場合は,任意整理での受任をお断りさせていただくことも増えるかと思います。